呼吸をする。



それは大切な行為だって誰が一番最初に気が付いたのだろうか?
遡って遡って遡って、魚類が陸地に這い上がって来た時に気が付いたのだろうか?
って、そんな事を考えていたって埒が明かない。
わかっていても考えてしまうのは悲しいかな人間の性なのだろう。
まぁ、今俺が置かれているこの状況下でそんな事を考えるのはどうでもいいの事なのかもしれないけど、この思考回路はどんな状況下に置かれようと冷静に回るらしい。
俺もこんな状況に置かれなかったら気が付く事は無かったけど。
どんな状況なのかって説明しろって言われれば至って簡単。
俺は今目の前の部活の先輩でダブルスのパートナー、恋人である忍足謙也に首絞められそうになっているって事。
最初はまぁ絞められていたけど、数秒毎に弱まって今は両手が首に置かれている状態。



















「絞めたいんやったら絞めぇや」


「息…出来んくなるやん」


「今更とちゃいますの?」


「せやけど、…嗚呼どないしたらええんかな?」


「知らんし、謙也さんにしか謙也さんのしたい事なん解るわけないやん」



















可笑しくなりそうだ。
何にって、愛しいと想われる度に傷付けられる事に、だ。
当の本人はそんなつもりは無いのかもしれないけどその行為自体制御できていない。
拒もうと思えば拒む事は出来る、でもそれをしないのはどこか俺の中で赤いサイレンが鳴り響いているから。
この人は俺が拒めば拒むほど余計に壊れて行ってしまうのだろう。
遠い目をしながらに思う。
この人は何かに怯えて、何かから自らを守る術を探している。



















「光は…、ひかるは…」


「何ですか」


「俺を置いて逝かんといて、な」



















嫌にその発せられた声が、言葉が、耳にこびり付いた。
泣きそうとも取れる声の先にある真実なんて、俺はこの人じゃないから一生掛かっても解らないだろう。

















(置いてったりなんせぇへん)(やって俺はもう…、)