出逢った頃の幼い君はとても愛らしい顔をしていた。
幼いのに、俺は目を奪われてしまったんだ。
天使が目の前に現れたんじゃないかと目を疑ったくらいに。
でも君は全身に似つかわしくない火薬の臭いを漂わせて、ただ無表情に、冷め切った瞳で俺を見上げていた。
「寒くないか?」
「大丈夫」
「そっか…。寒なったら、ちゃんと言うんやで?」
「…はい」
仕事の関係上、俺は必然的に光とよく一緒に居るようになった。
それは良くもあり、悪くもある事だと俺は思う。
何故なら俺と一緒に居ると言う事は少なくとも光はいつか人を殺してしまうと言う事になるから。
こんな幼い子供に"人殺し"と言うレッテルを貼り付けてしまうのかと思うと、俺の良心は酷く痛んで今すぐにでも止めさせたい衝動に駆られる。
初めて俺が光と出逢ったのは光がまだ5歳の時。
俺はまだ新米で、仕事に不慣れだった頃、未来の俺のパートナーだと上司に紹介されたのが切っ掛け。
その時、俺は一瞬で光に心を奪われた。
守ってあげないといけないと、そう深く思った。
『初めまして…やな。えっと、名前なんて言うん?』
『ひかる』
『ひかる?どないな字ぃ書くん?』
『ヤミとヒカリの光でひかる』
『ええ名前やな』
『…そう?』
『……えっと女の子?』
『おとこ』
『せ、せなんや!!ごめんなっ』
『べつに…、よくいわれるから』
窓の外を悲しく眺める瞳が印象的だった。
何故そんな悲しそうな瞳で外を見るのか、何をこの小さな身体に隠して生きているのか、俺だけに話して欲しい…、そう思っていた。
こんな感情を抱くのは初めてだし、何せ相手はまだ5歳の子供。
子供相手にそんな感情を持つだなんて、正直俺自身に驚いた。
でも、それ以上にこの子は此処に居てはいけない。
枷なんて必要の無い子なんだと、俺はすぐに理解した。
それから数日後、俺は見ては行けない物を見てしまった。
上層部の人間が、光に強いていた物。
現場を目撃した俺は頭に一気に血が上った。
始めて出逢った時に見て見ぬ振りをしてしまったあの痣は、きっとこの男が無理矢理付けた物で、光は誰かに助けを求める事をせず、ただただ、一人で苦痛を抱え、世界に絶望していた。
何故自分はこんなにも無力なのか、無性にそれが腹立たしかった。
こんな幼い子供に痛みを我慢させて、俺たち大人は何も気が付かない。
上層部の人間の汚いやり方にも、こんな幼い子供を殺しの道具にしようとしている事にも、何もかも。
『光…ッ!』
『…あ』
『ごめんな、ごめんなっ』
『…』
俺が謝れば謝る程光は首を左右に振った。
それは俺にとって、俺の存在を拒否するような、突き放す行為だった。
『ごめん、ごめんッ…!』
『あやまらんでください』
『なんで、』
『これはおれのやるべきことなんです』
『そんなん…、可笑しいやんッ!』
『いつかはひつようになるでしょ?』
『そんなんいらへん!必要になる事なん、あらへん!!』
涙が出た。
こんな行為を必要になると思われている事が、悔しかった。
こんな汚い世界を知らなくてもいい子供が、どうしてこんなにも悲しい事を言うのだろう?
愛なんて知らない。
親からは生まれて直に引き離されたと聞いた。
親の顔も知らず親の愛情も知らず、綺麗な世界は何も知らない。
汚い世界しか知らない子。
「光、見てみ」
「…?」
「プレゼントや!」
袋の中から沢山の愛情をあげる。
君が失った分は
僕が全部あげるから、
だから哀しまないで、
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