あの日流した涙は、いつか記憶の中から消え去って、俺はただの"後輩"という名の位置でしか残らないのだろう。
それでもよかった笑っていてくれるなら、消え去ってでも、この思いは消えたりなんてしないとわかっていたから。









『今年の新入部員はどないや?』

「どない言われましても…、普通っすわ。去年がインパクト強かったんとちゃいます?」

『あー…金ちゃんな。しゃーないんとちゃう?あのゴンタクレはホンマ…』

「そうやってすませたん白石さんだけでしょ?みんな引いてたやないですか」

『ええやん、今はちょいしっかりしとるやろ?』

「なんか言うたんでしょ」

『わかるかー?』

「まぁ、ええですけど」

『ハハハ、お前はどないなん?』

「なにがですか、」

『謙也や、け・ ん・ や』

「あー…」





手に持った携帯に少し力がこもる。
触れて欲しなかった話題やない、確かに在学中には相談に乗ってもらっとったし。
やから普通にその話題になるのは判ってたことや。





『別れたんやろ?』

「別れましたわ」

『アイツなんて言っとった』

「別に普通やったけど…、合わんかったんかなとか、男同士やったんやからしゃーないかって」

『それだけか?』

「それだけっすわ」

『………。もう一回だけ聞いたる、ホンマに謙也は財前にそれだけしか言わんかったんか?』

「性質悪…。」





それだけやなかったんは確かや。
あの人は泣いとったし、自分でも判っていないほどに泣いとった。
アレは心から流れとった涙やと思う。
判ってからやったらもう遅い、そう思たときには遅かった。
しゃーない、俺とあの人は通じ合っとらんかっただけや。





「…」

『財前?』

「はぁ………。確かにそれだけやなかったですけど、今更言うても遅いやないですか。言うて許して貰えることやないでしょ、こんなん」

『そうやな…、それでもオレには知る権利があると思わん?一様アイツの親友やし、元やけどお前らの部長や、それに相談にも乗ってやった』

「相変らずええ性格してますわ、先輩」

『おおきに。で?なんて言われたん』

「"それでも好きやった、それは今も変わらんって言える。お前にとってそれが重いって気ぃ付いてやれんでスマンかった"」

『明らかに未練あるやん、しかもアホやな』

「そやっても、あの人らしかった」





今でもあの時の全部を思い出せる俺自身もアホや。
未練あるんは俺も一緒なんや。
でもこういう結果でしか決められんかった、言うことも出来んかった。
俺の弱さが一番アカンかった。





『なぁ、財前』

「なんですか?」

『もしな、高校入って、お前が2年になった時にまだアイツのこと好きなんやったら寄り戻し』

「なんでですのん?」

『謙也やってまだ財前のこと好きやって思とる気持ちはあんねん、見とったら判る、未練有り過ぎな顔しとるからなアイツ、コレはちょっとした賭けや』

「賭け…ですか、」

『そや。んで、謙也に言うてムリやったらそれはそこまでやな。戻せたんやったら今度は放したんな』

「その賭け、意味あるんですか」

『わからんなー、そんときにならな』





でもやる価値はあるやろ?そう笑いながら言った。
もしそのときになってまだ好きなんやとしたら、この際諦めるんも手かもしれへん。
距離を置きたかっただけやって言えば許して貰えるのかもしれへん。





「考えときますわ」

『そうか、よかったわ。安心しぃ、謙也には言わへんから』

「当たり前ですわ」

『ほなな、お休みぃ』

「はい」











(この気持ちが、まだ有効なんやったら)(俺も謙也さんもただのアホやな、性質悪いわ…)