あれから数年経った今でも、おれは変わわずにあの人が好きやって。
変に期待しとったりする。
自分でも馬鹿みたいやって思たりもするけど、好きなんはしゃーないって思とるからしゃーない。
喫茶店の窓越しに大通りを盗み見たら、行き交う人はみんな忙しなく動いとった。
誰も立ち止まったりなんかせん。
高校に入ってから部活はやる気がせぇへんかった。
中学ん時よりテニス部も詰まらへんかったし、なんでか熱中なんか出来へんかった。
全国なんか目指してません!って感じの部活やったからそんなんやったらええわって思た。
入るからには一番目指すんは当たり前やのに、ただの遊びや、仲良しごっこ、馴れ合い。
仮入部せぇへんかった訳やない。
そんな部活でも部長とかは目指しとるやろーっとか思て一様してみた。
でも驚きやわー、めっちゃダルそーにやってんねんもん。
部長の癖に半幽霊部員で笑えたわ。
実力勝負なとこ出とるおれにとってはなんもオモロないとこやった。
軽音があったんはちょい嬉しかったんやけど、なんやいまいちぱっちせぇへんかった。
入って1ヶ月過ぎる前に辞めた。
キャラメルラテのほんのり甘い香りが香る。
皿には食べかけのプリンタルト。
方耳に挿したイヤホンから永遠リピートされとる一曲。
4人掛けの机の上に置いとるMD一枚とレポート用紙数枚と筆記具。
隣の椅子に置いとる開けっ放しの通学用カバン。
「(蔵さん遅い…、)」
生ぬるいラテを飲んで、シャープペンシルに手を伸ばした時、滅多に開かへん喫茶店のドアの小さいベルが鳴った。
「待たせてもーた?」
「2時間ちょいっすわ」
「そない待っとったんかいな。メールしてくれても良かってんで?」
「部活やっとったんでしょ?邪魔したないですわー」
「さよか、」
向かいの席に座る蔵さん。
こーやって呼び始めたん何時やったかな?白石さんって読んどったら痒い言われたんや。
「この場所よーわかりましたね」
「わかったって、めっちゃ探してんでー。大通り外れた所って言っとったから助かったわ」
「へぇー。なんか飲みますか?」
「そーしよっかなー…、オススメは?」
「ラテ」
「ほな、カフェラテにしとくわ」
そう言ってマスターと喋り出した。
おれは新しいレポート用紙引っ掴んで課題に取り組む。
数分してからマスターがカフェラテとキャラメルラテを出してくれた。
「おおきに」
「…………っすわ」
お礼を言うとマスターは人の良い笑顔を向けてくれた。
和むわー、こんなアホみたいな世界やのに癒される。
「ホンマ財前は変わらへんなぁ」
「ええ事やないですか」
「せやな…。謙也にこのMD渡し取ったらええの?」
机の上にあったMDを取って言うてきた。
蔵さんの左手に包帯なんかもう巻いてへん。
なんや、哀しなった。
「御願いします」
「別にええよ、こんな事しかしてやられへんから」
「そんな事ないです」
「おおきに。ええ後輩持ったわー」
優しぃ笑わんで下さい。
ダブってまう、哀しなる、寂しいやん。
「んで、何時会うつもりしとるん?」
「何時…言われても、向こうにも都合ありますから、」
「そんなんいくらでも付けれると思うで?」
「そのMD聞いてからでええんです」
ハッキリ言うたつもりがめっちゃ小さい声でしか言われへんかった。
情けない。
馬鹿みたいや。
執着しすぎて笑えてくる。
ダメダメやな…、
(そない泣きそうな顔すんなや、)(今すぐに会わせたぁなるやないか)