今考えて見れば、あん時の俺はまだまだ幼稚で考えも浅墓で、相手の事なんか何一つ考えとらん奴やった。
年上やのに全然敬語使えてへんかったし、生意気で、いつ見放されても文句言えへんかったのに、謙也さんだけは最初から嫌な顔一つせんと居ってくれた。
しゃーない奴やって笑って許してくれた。
「あ、あんな光」
「…」
ちょっとヘタレてるところやって長所やって言えば長所なんになるんや。
そんなところも含めて俺は謙也さんの事好きになってもーてるし。
ヘタレてるからこそ、偶に見せる真剣なとことか俺に対して怒ってくれるとこが、ホンマカッコええって思っとる。
「MD、受けとったで」
「蔵さんちゃんと渡してくれたみたいで、さっきメール来ましたわ」
「し、白石ん事、蔵さんって呼んでんねんな」
「そう呼んで欲しいって言われたんで」
蔵さんからメールが来た思たら、チャイムが鳴って謙也さんが来たって事はわかっとった。
メールに書いとったし、来てくれるって思とったから。
取り合えず、俺の部屋に上がって貰ったけど、謙也さんは初めて俺ん家来た時みたいにガチガチで今にも倒れそうな感じや。
「そ、そうなんや」
「はい」
久々に会った謙也さんは中学ん時よりもカッコ良ーなっとった。
蔵さんの隣に居って霞むどころか、寧ろ二人揃って街歩いてたら絶対に逆ナンされたり事務所とかからスカウトされそうな程に。
それに比べて俺は中学ん時から何一つ変わってへん、と思う。
まだまだ幼稚な考えしか出来ひんし。
幼稚な考えしか出来ん自分が嫌でピアスホールの数が増えていった。
やけど、それに気が付かれるんが嫌で学校行く時は耳隠すよーにワックスなんか付けんくなったし、外に出るにしても学校の奴に気が付かれたないからちょい格好も工夫したりしとる。
「増えた?」
「…何がですか?」
「ピアス、中学ん時は5つしか開いてへんかったやん。やのに今は10個も開いとる」
「嗚呼、開けましたけど?」
「なんでそないな事するん」
自分の事みたいに泣きそうな顔する。
謙也さんの優しさに縋る事なんか簡単やし、困らせるんも簡単。
でも、縋っとったら壊れてまう。
あん時の俺はそれが怖かったんやって今になってやっと判った。
「嫌なことがあっただけですわ。謙也さんの所為やない」
「オレが居った時はそんなんせぇへんかったやん」
「気にせんくてええですから。もーせぇへんし」
「ホンマに?」
「ホンマです。やって謙也さん居ってくれるんでしょ?」
笑って言うたった。
ちゃんと笑えとったって自分でも思うくらいに笑えとったし、今此処に謙也さんが居るっちゅー事は俺の事好きで居ってくれたからやって事やと思たから。
「卑怯や…、」
「卑怯でもええですわ。此処に謙也さんが居るって事はちょっとでも俺の事好きで居ってくれたんでしょ?」
「ちょっとやないは、むちゃむちゃ好きやっちゅーねんっ」
抱き締めてくれる、昔と少しも変わらん体温で。
多分、ちょうどええんやと思う。
謙也さんは温かくて、俺は冷たい。
正反対やからこそ、惹かれて、好きになって、一緒に居て欲しいって思う。
「なぁ、謙也さん」
「なんや…、」
「もし、また俺が別れましょって言うても放さんで下さい」
「当たり前や…。もう絶対に放さへん、あんな思い、もうしたない」
(謙也さんとやったら大丈夫やって思うんや)(あの時からずっと、)(俺の事見とってくれたんは謙也さんだけやから)