時の流れは速いもので、ついこの間中学に入ったばかりだと思っていたのにもう残り1年だ。
そう思っていた感覚でさえも部活で明け暮れ続けた日々でもう数ヶ月と云う片手で足りる程になってしまっていた。
365日なんてあっと言う間に過ぎて、時間が足りないようなそんな感覚におれは陥る。
仲間と一緒に目指した頂点の道も今は遠い過去の事になってしまっていた。
学校中でそんな噂話をする奴なんて居なくなってしまったし、言ったところでそんな事もあったな、と片付けられてしまう。
そう、俺たちはみんな変わってしまった。
時の流れに逆らう事が出来ずに、次第に記憶から消去され、いつかはみんなの事すらも記憶から消去するだろう。
そうなる前に、俺は刻み付けたかったのかも知れない。
じゃないとこんな行動に出るのは可笑しい。
手にはカッターナイフが握られ、反対の手には誰のものかもわからない血で濡れきった腕が握られていた。
(誰の腕なんや…、)
周りを見渡してみてもこの腕の持ち主が居らず、どうする事も出来ない。
取り合えず部屋を歩いてみようと歩みを進める度にべちゃべちゃと気持ち悪い音が響き渡る。
暗い、暗い空間だった。鼻に突く血生臭い臭い。
嗚呼これが異臭って言うのかも知れないな、とどこか冷静な自分がおれの中に存在している。
こんな自分は知らない。
こんな状況も、場所も知らない。
誰かに助けて欲しかった。
こんなコトはどうか夢であれ!と願わずには居られなかった。
(こはる…、こはる…、こはるッ…!)
幾ら頭の中で愛おしい人の名前を反復したとしても、その声は音になって口から零れ落ちることはなかった。
痛いくらいに前の皮膚と後ろの皮膚がくっ付くんじゃないかって程に、喉が渇き切っている。
変だと思ってもこの状況を打開する方法なんて自力で見つけられそうにない。
どうすればいいのか自分では見つけられそうにない。
ゴツンと一瞬だけ左足が何かに当たった音がした。
暗闇で慣れた目を凝らしながらゆっくり、ゆっくりと左下を見る。
「―――――ッ…!?」
左足が当たった先にあったのは見慣れたヒヨコみたいな色をした金髪…。
誰かなんて考えなくても判る。
これは…、
「け、ん……や?」
認識したと単に周囲に光が満ちた。
謙也だと思った横たわっているものはやっぱり謙也で、あちこちに見覚えのある奴等が血塗れになって倒れこんでいた。
オサムちゃん、白石、小石、銀、千歳、金ちゃん、財前、他のテニ部の奴等、生徒会のメンツも居る…。
でも、その中に小春の姿なんてなくて、俺が持っている腕も誰のものかわからへんかった。
やって、みんなちゃんと手は付いてんねん。
足も付いてるけど、ないんはもっと中。
内蔵やったり大腸、小腸、胃…、ありとあらゆる器官が外に出されてしもぉとる。
視線を周囲に巡らせていると半開きになったドアが視界に映った。
もしかしたら小春はそこに一人怯えているのかも知れない!
そう思い急ぎ足でドアまで向かう。
途中、誰かに躓きそうになったりもしたけど、そこはなんとか踏ん張った。
「こ、はるッ…!」
バンっ!と思いっきり開けたドアが壁にぶち当たって煩い音を立てた。
その先には小春の姿なんか見つからなくて、代わりに業者が使って居そうな大型の冷蔵庫が2台。
不思議に思いながら1台に手を掛け扉を開いて見ると、そこには…、
「 …、」
今思い出しても恐ろしい夢だ。
いや、本当は夢で終わらせてはいけないのかも知れない。
おれが日々思っていることが夢として現れておれに見せたのかも知れない。
憎くて憎くて仕方がなくて、もういっその事おれだけしか見る人が居なくなればそれは幸福なんじゃないかとかそうやって思っていて、蓄積され続けた結果がコレなんじゃないだろうか?
好きだから、大切だからと言ってもやっていい事とダメな事の区別くらいおれには付く。
そこまで子供じゃないんだ。
嗚呼、でも、もしもあの夢が現実になる事があったとしたら、おれは幸せで幸せでもう死んでもいいと思うかも知れない!おれだけの者。
おれだけに愛でられて、おれだけに見られて一生朽ちる事なく存在し続けるのだから、それはそれで本望なんじゃないのだろうか?
いや、この考えは間違っている!
だって名前を呼んでもらえないなんて嫌だ。
呼ぶたびに反応してくれないんじゃ意味がないじゃないか、そうだ。
やっぱり間違っている。
あの夢は現実になるべき夢じゃない。
寧ろ闇に投げ捨てて二度とでてこ内容に何十にも何十にも蓋を閉めて鍵を掛けておかないといけないだろう。
嗚呼、すまん、小春。
おれの愛はどこまでも狂ってる。