劈くような耳鳴り。
目の前が一気に真っ暗な闇に包まれる。
目の前に居るこの少年は、
俺の知っている彼なのだろうか?
「なぁ白石…。ワイと遊ぼうや」
「何、言うとるん?」
「遊ぼって言うとるだけやで?」
「きん、ちゃ」
ジリジリと押し寄せてくるこの異常なまでの威圧感は何?
こんなのは俺の知っている彼じゃない。
じゃあ今目の前に彼の皮を被って存在しているのは誰?
彼はさっきなんて言っていた?
"逃げて"?
何から?
どうやって?
きっと彼が言っていた"逃げろ"と言う言葉は目の前のコイツと関係しているんだ。
早く、早く元に戻らせないと、
「金ちゃん、どこやったんや」
「何言うとるん?ワイはワイやん」
「嘘や」
「白石…、」
「返せ言うとるやろッ!」
無
重
力
地
帯
投げ飛ばされて。
軽く現実から逃避したい気分になった。
でも、逃避したところで現実が変わってくれるわけなんてない。
どんなに拒んでも、どんなに拒否しても、勝てやしないし、彼を傷つける事なんて俺には出来ないんだ。
「や、めろやッ…!」
「イヤヤ。もっと啼いてぇや」
「ぃぁ、っ」
「…声出せ言うとるやん」
目の前の彼は別人格。
愛しくも、なんともない。
吐き出された白も、
中で弾けた熱も、
何もかもが違う。
俺は彼にまた、
愛を囁けるだろうか?