僕等は不器用な恋をした。
新しい春の風が舞うあの日、僕等は出会ってしまった。
出会うべくして出会ったのかもしれないし、本当は出会ってはいけなかったのかもしれない。
本当の心理なんて幼い僕等には到底解りっこない問題で、あの時はただ無我夢中に愛おしい姿を追いかけただけだった。
そう僕等は互いに幼い故に不器用だった。
自分しか守る術を知らないのに、大切な人を作り、傷付け合った。
ボロボロになりながらも直縋りついて、泥沼に足を突っ込んでしまった状態から抜け出す事が出来なかった。
「もう、会わへんって約束して下さい」
今の幼い僕が出来る最善は"別れ"と云う二文字だけ。
たったそれだけで僕等は世界から守られる。
世界を敵に回すことなんてないんだ。
たとえ、自身がこの恋を忘れられなかったとしても、ずっと追い求めたとしても、僕等は世界から守られる。
いや、この人だけでも世界から守られればいいんだ。
俺自身なんかどうなったって良い。
ただこの人が笑っていられる優しい、やさしい世界であればそれでいいんだ。
「嫌やって言うても、光は絶対に突き通すんやろ?」
「はい」
「なら仕方ないな。ええよ。別れよ」
例えアナタが泣きそうな顔で微笑んでも、この決心は揺るがない。
だって、アナタが笑っていられる為の最善だから。
だからどうか解って欲しい。
俺は決してアナタのことを嫌いになった訳じゃないと言う事を。
この世界の誰よりも、ずっとずっと、アナタを愛していると言う事を。
『 東 京 に な 、 進 学 す る ね ん 』
新しいハルの風が吹いた。
アナタが東京に行ってから2年が経ちました。
アナタは東京と云う新しい地で、俺に笑い掛けてくれたように笑って居ますか?
俺はきっと、もう一生笑えないだろうけれど、どうかアナタだけは、ずっとずっと幸せで合って下さい。
重なり合った熱を思い出しては涙する日々がどうか続かないように。
懐かしいこの地で俺は…―――。