『 好 き で す 』









そう声に出して言えたならどんなに楽なのだろうか?




まぁ、そんな事考えたってこの想いが解決する訳じゃない。

























「いっその事ドロッドロに溶けてまえたらええのに」




















「な、に…物騒な事言いなや」


「だってッ!」


「ゆずる」


「うー…はい」


「諦めへんて言うたんはお前やろ?」


「うん」


「そう言うたから俺も応援するって言うたんやん?」


「うん」


「大丈夫やって」


「…ホンマ?」


「嘘言わへんし」








目の前に座る親友 白石蔵ノ介はそう何度も何度もうちに言う。

うちが不安になる度に同じ言葉を言い、好きで居る勇気を何回もくれる。



アタックの仕方なんて全然知らないし、他の子みたいに化粧が上手く出来る訳でもなく、可愛いらしい訳でもない。

"平々凡々"それが一番うちに合う言葉で、家はみんなよりは少しお金持ちってなだけ。

でもそれに引かれる様な人と付き合うなんて絶対にイヤ。

愛がなくちゃイヤ、ちょっとばかり欲張り。



そんなうちの目の前に現れた王子様 財前光。

クールでV系の雰囲気をしていてカッコイイと女子に評判の子。

耳には左右合わせて4つ穴が空いている(とても痛そう)。

学校でもちょっとばかり柄の悪い子(所謂不良)と仲が良い。

でも、甘いものが大好きな可愛い一面を持っていて、小さい子にはとても優しい人。

うちは、そんな彼に2年の夏(つまりは2ヶ月前)…、恋をしました。







彼との出会いは白石に紹介された。

ただそれだけで、向こうもきっと男子テニス部部長 白石蔵ノ介の唯一の親友(女)って感じにしか捉えられてないと思う。

それ以上でもそれ以下でもない、顔見知りの先輩。



うん、見て解るようにうちの一方的な一目惚れ。

悲しいくらい一方的。

やって、紹介された時点でもう彼には彼女が居た(ついこの間別れたらしいって小春ちゃんが言うてたけど)。

その彼女はうちから見てももの凄く可愛くて、胸もうちより有ったし、お化粧も上手で、笑顔が印象的な凄く女の子らしい同じ2年で、男子に評判の良い子だった。



羨ましかった。

でも、うちじゃ叶わないって思い知らされたみたいで、ちょっと嫌やった。



















「好き…過ぎてどないしたらええかわからへん、」


「初恋やない癖に」


「もう、振られるん怖い」































うちは、1年の6月梅雨真っ盛りの時に好きになった男子に告白してこっ酷く振られた。

そう言う対象に見られへんってそう言われるだけやったらどんなに楽やったやろうか?って思うし、今でも思い出すと心が無茶苦茶苦しくなって泣きたくなる。









『キモい』








告白して言われた言葉が胸に突き刺さる。

うちは、ただうちは、"好き"なんだとそう言えればそれで良くて、付き合うのは無理だってわかってたから、想いだけでも伝えたかっただけで、それ以上なんて望んでなかったのに、それだけやったのに、








『もう話し掛けんな』








恥ずかしいくらい大泣きして、土砂降りの雨の中佇んでた。

制服もローファーもこの日の為に頑張った髪も全部びちゃびちゃに濡れてた。

保健室から見えたのかも知れない、告白する前に頑張れって言うて笑って送り出してくれた白石と小春ちゃんが傘とタオル持って駆けつけてくれた。

泣いてる理由を言っても苦しさはなくなる事なんてなくて、ただ辛くて辛くて、恋をしても、どんなに好きになっても、うちはあれから"好き"だなんて二度と言わなくなった。



振られたくない。

もう二度と同じ痛みを味わいたくない。

気持ちの整理もちゃんと出来ない、ぐちゃぐちゃでボロボロなまま。

人から寄せられる好意が凄く恐くなって、男子からのフラグを(故意的に、ではないけど)全て折った。

凄く良い人止まりになるように一生懸命努力した。

白石の傍に居れば、自ずと自分では叶わないと自ら去ってくれるから少し楽だった。














でも、彼への想いは違った。

そんな直に折れて諦められるような容易い物じゃなかった。

自分の中に在る好きだって言うパロメーターが限界を超え過ぎてどうしたらいいか解らない。

二人で喋って居ても、もっと傍に居たい、構って欲しい、少し悲しい気持ちになる、もっともっと自分が可愛かったらってそんな気持ちになる。



恋する事が恐いくせに、"好き"なんだと言う事なんて出来ないくせに、一人前に人を好きになって、悩み、苦しんで、他人に嫉妬して。

なんて醜いんだろう。



突っ伏した机の冷たさが頬に気持ち良い。

このまま冷たくなって凍死してしまえたら少しは楽になるかな?

彼への想いを抱いたまま死ぬ事が出来たら幸せかな?














「白石ぶちょー」


「おー財前。どないしたん?」


「いや、ちょっと辞書持ってへんかなーって思ったんスけど」


「忘れたんか?」


「出るつもりなかったんですわ。でも担当教師に見つかったんで」


「アホやなー」










机に突っ伏したまま目線だけ斜め上に上げると其処には愛おしい王子様の姿。


頭がパニックを起こす。

絶対に2年の教室に何て来ないと思っていたから油断した。

斜め下から見る彼の姿はとてもかっこよくうちの目には映った。

恋は盲目って言葉が有るほどやからうちが彼に恋している所為かも知れない。いや、違う。

やって彼はホンマにかっこいい。

一般的にイケメンやって言われている芸能人よりも整った顔してるもん。


嗚呼、もうどないしよ。

ホンマにカッコイイ。

かっこよ過ぎる…。

また頭ぐちゃぐちゃしそう。

あ、今日髪なんも弄らんと来てもうた。

終わった、うちの人生終わった。

って、うちの事好きでもない相手何やからそんな所まで注意して見ぃひんよな? うん。バカや、うち。

















「あー…、俺今日は持ってへんわ。ゆずる辞書持ってへん?」




(今、彼女居るんかな?可愛い子かな?)




「ゆずるー?」


「へ?あ!え?」


「聞いてへんかったんか…、辞書。持ってへん?」


「あ、ある!今日突っ込んで来たから!」







ゴソゴソと鞄から黄色い星のストラップが付いた電子辞書を出して、白石に渡したら思いっきり首を横に振った。







「あれ?白石要るんとちゃうの?」


「いやいやいや、使うん俺やなくて財前やし」


「ふぇ?そうなん?」


「せや」


「ふーん。んじゃはい!」








嗚呼、神様!

うちは今ちゃんと笑えてますか?

うちのん貸して嫌な顔されへんやろか?

不安、不安、不安。

おっきな不安に心が押し潰されそう!










「すんません、おおきに」










うちのそんな不安な心は杞憂に終わったようで、今まで見た事の無い笑顔で彼に受け取られた。

嗚呼、自分の辞書ながら彼に使って貰えるとか羨ましい。

羨まし過ぎる。






「あ!白石今何時?!」


「今?1時5分やけど、何かあるん?」


「小春ちゃんに呼ばれとった!」


「…はよ行きや」


「おん!行って来るっまたな、財前くん」


「あ、ちょ」





辞書を貸したって事は5時間目が終わったら返しに来てくれるんかな?

今日はまた会えたりすんの?

返しに来てくれた時の事を想像したら顔が熱くなる。

嗚呼、絶対に顔真っ赤や。

小春ちゃんとユウに笑われてまうかも知れへん!

あ、でもでも!!

今のうちは幸せやからそれでも大丈夫ッ!




この気持ちを彼に伝える事は無いかも知れへんけど、卒業するまで、ずっとずっとこうやって幸せな気持ちで居れたらいいのにな。

不安なんかなんも無くなってちょっと話しただけど幸せになれるような、そんな関係のままずっと居れたら、





うちはそれで幸せ。









































「…ざいぜんくん」




「"ひかるくん"の方が嬉かったやろ」


「別にええです」


「強がって」


「いつか呼ばせてみせますから」


「ゆずるん事、泣かせたらただじゃすまへんからな」












さっきまでの部長の表情とは打って変わって射殺されるような目で見つめられる。

絶対に目線を逸らせない目。

部長が本気やって言う証拠。

誰よりもゆずるさんを大切に思ってる目や。






(泣かせる…、)



「"私は守るのでなく、守られたい"」


「え…?」


「この意味わかったら、ゆずると付き合うん許したるわ」











『なぁ白石』


『ん?』


『つまりわたしは守るのでなく、守られたい』


『どないしたん?』


『ええ言葉やと思わへん?』


『…せやな』


『うちにも、そう想う人が現れるかな』


『現れるわ』


























It
has
become

an
angel.