ゆったり流れる音に耳を傾けて











僕はいつも、貴方を想うのです















「なーゆずるー」

「どないしたん?」

「Hzの新曲聴いた?」

「ひ、ず?」

「え、ちょお待ってや!ゆずるってばHz知らへんの?!」

「え…?なにそれ?」

「今めっちゃ人気出とるアーティスト!」

「そうなん?」

「もぉーっ!CD貸したるから覚え!」

「う、うん」















大学の友達から強引に貸し出された1枚のCD。

ジャケットはとてもシンプルで真っ白な背景の真ん中に写り込んだ一本の手。

何かを取るような仕草で伸ばされた綺麗な綺麗な手。

開いた先にあるディスクにはCGらしくない月を乗せた手がプリントされていて、凄く幻想的。


傷を付けない様に丁寧に取り外したCDをコンポにセットしてソファーに腰掛ける。

全4曲とディスプレイに表示された画面。

事前に用意しておいたブラックコーヒーを飲みながらリモコンの再生ボタンを押す。

















独特の澄んだ声。





紡がれる旋律。











一瞬で魅了された。

とても、とても悲しく歌っている。
男なのか女なのか判別がし難い声で、痛いと、辛いのだと訴えかけていた。

















名前なんていらない

キミが呼んでくれないなら

名前なんて要らない

キミが答えてくれないなら
























涙が溢れ出た。





この歌詞に共感出来た。
自分自身、この歌詞のように想った事が何度も何度も想ったから。

















"名前なんていらない"


アナタが呼んでくれないなら、きっとこの名前は意味を持たない。











"名前なんて要らない"


アナタが答えてくれないなら、きっとこの名前は価値を持たない。























CDを借りてかた数日が過ぎて、見事にHzのファンになった。


CDを貸してくれた友達曰く、Hzは表舞台には絶対に立たないらしい。
ライブもしないし、音楽番組に出る事も顔出しで雑誌に載ることもない。
全てが謎に包まれたままのアーティスト。
でも、ファンからすればそこがまたこの歌手の魅力で良い所。
顔も判らない、性別も判らない。
だからハマるのだと言っていた。
でも、最近になってHzが深夜の生放送の音楽番組に出ると言う噂が広まった。
内心嘘だと思いながら深夜、新聞や番組欄ではタイトルしか載っていない番組を見る為にチャンネルを合わせた。


軽快な音楽と番組タイトルがテレビから流れる。
数分見ていたがいつまでたってもHzが出る気配はなかった。
ガセネタかと思いテレビを消そうとしたその時、Hzにハマる切っ掛けになった歌がテレビから流れ出した。




















『初めまして、Hzです』



















テレビに映し出されたHz。


歌を歌っている時とは対照的なとても低い声。
短い髪をワックスでセットしていて、カッコイイ男の子。
時々耳のピアスが証明に当たりキラリと光る――――。